多くの政治家や官僚は経済学を「科学」と同等の学問と誤解しているようですが、私は経済学のことを「人々を統治するための宗教」と考えています。
◎「科学」とは何か?
この問は、とても哲学的です。私は、
①反証可能性を持ち、誰でも反証可能な仮説
②厳しい反証実験を耐え抜いた仮説ほど信頼できる
と考えています。
例えば、物が地面に落下することに関しては、以下の式で表せます。
落下速度(メートル/秒) = 9.8 × 時間(秒)
落下距離(メートル) = 9.8 × 時間(秒) × 時間(秒)
上記の式は、落下する物体の重さを考慮していない点や、係数を9.8に固定していることに関し、反証できそうです。また、実際に色々な物を落とせば確認できるので、誰にでも反証実験できます。ところが、実際、誰が実験をやっても同じ結果になり、同じ結論に帰着します。上記式を一層裏付けることとになり、結論の信頼性が増します。これこそが「科学」です。逆に、どのような理論でも、「~という、私の主張は絶対です」と述べるだけだったり、実証せず第三者に反証の機会も与えない場合、科学的と言えません。
◎経済学はどうか?
たとえば、慶應義塾大学経済学部の1年生は、「経済学入門」を教科書として勉強しています。この本では、私たちの経済活動を、定性的な理屈とともに、数式やグラフによって数学的に説明しています。「家計の行動」という章を見ると、需要曲線に関する記述があります。考えをグラフにすると以下の図のとおりです。
グラフが示していることは、価格が下がれば買う人は増えるものの、価格が上がれば買う人は減るという考え方です。これは、ものすごく説得力があり、経済学における最も基本的な教えです。経済学者のみならず経済に関心のある方の間でも常識です。
◎現実はどうか?
ところが、上記のグラフや考え方は、日頃の私たちの購買行動を考えると反証に弱いことが分かります。
例えば、私たちは、iPhone5が出たからといって、価格の下がったiPhone4sを買ったりしません。たとえ買うつもりでも、明日に価格がもっと下がると思えば、明日まで買い控えます。逆に、来週ガソリン価格が上がると思えば、既に価格が高騰していても週末までにガソリンを買い足しに行きます。人の心理から見れば、購買意欲のグラフは下記のとおりです。
これは、経済学の教科書と矛盾しています。
◎経済学とは何なのか?
上記のことからも、経済学とは、一見すると科学的ですが、経済学の教科書にある基礎すら実証していない、理論としてはとても弱い「仮説」であることが分かります。実際、マクロ経済学には「貨幣数量説」や「有効需要説」などいくつもの諸説や派閥が乱立しています。また、お互い、言葉や数式で批判し合うものの、反証(実証)実験をしていません。経済学は「科学」ではなく「社会学」です。
ところが、不思議なことに、経済学には、巧みな言葉と数式・グラフを駆使することで、人々を説得するだけの力があるようです。まるで、人々を統治するための聖書の「教え」のようです。これは、まさに「宗教」と同じです。
つまり、「経済学」とは、人々を統治するための、宗教の一種なのです。