2016年11月13日日曜日

なぜメディアはトランプの勝利を読めなかったのか? 〜如何に将来を正しく予想するか?〜

 今、メディアは、大衆から「何故トランプの勝利を見誤ったのか?」と問われているようです。しかし、私は、その問い自体が間違ってると思います。
 何故なら、メディアで働く方々は、自分の書いた記事が人々に着目され売れなければ生活を維持できません。大衆に注目されるネタこそが彼らにとって必要なことです。彼らは、常に「如何に着目してもらうか?」「如何に記事を買ってもらうか?」を自問し続けているのであり、正確な将来予測や事実報道をする動機を必ずしも持っていないのです。つまり、将来のことをメディアに問うこと自体が馬鹿げているのです。
 では私たちはどうしたら良いのでしょうか?如何にして将来に備えれば良いのでしょうか?ネットは、今や全世界に普及しています。ISの戦闘が続く地域ですら活用されています。ネットは制限のないことからとても自由な世界です。ネットには、嘘の情報も蔓延していますが、未加工の情報源や知性溢れる本質をついた分析も沢山あります。私たちは、ネットを活用することでそれらの情報をいとも簡単に参照することができます。今年の大統領選挙に関して言えば、マクロ経済データ分析屋は諸経済指数の伸び悩みから経験値と照らし合わせ政権交代すると予想していました。
 「如何に将来を正しく予想するか?」と問われれば、「自から、知性を身につけ、ネットを上手に活用し、信頼できるデータや分析結果を議論して見極めること」と回答できます。「風が吹けば桶屋が儲かる」といったデータ裏付けのないお話には注意が必要です。 (おしまい)


図はFortuneから

2016年5月5日木曜日

民進党の結党の意義、野党共闘の意義とは 〜自民党と民進党の比較〜

 2016年7月に参議院選挙が予定されているなか、私たちは選挙に向け自分の支持政党を決めなければなりません。支持政党の選択に際し大切なことは、状況により刻々と変わる個々の具体的政策そのものよりも、各政党の基本的な政治理念や立ち位置をよく見極めることだと思います。
 その点、欧米の各政党や各政治家は、基本的な政治思想が左派右派に分かれており対立軸がはっきりしています。
 しかし日本においては、政治思想に関し、「脱官僚」「道州制」の議論に見られるように、欧米にない統治機構に関する対立軸も存在しています。そのため、各政党の政治思想に関する立ち位置が分かりづらくなっています。また、旧民主党、旧維新、旧みんなが統一し新たに民進党が誕生したものの、各方面において民進党の政策理念がわかりづらいとの指摘があります。

 そこで今回は、自民党と民進党の基本的な立ち位置を2つの対立軸から分析してみました。


◯対立軸その1 「左派(集団利益優先)」 VS 「右派(個人利益優先)」
 従来から認識されている対立軸です。左派は、個人の利益より社会全体の利益を優先します。社会全体の利益を優先することから個人の権利や自由を制限することもあります。また、政府が社会に貢献できると考え、政府に多くの役割を求めることから大きな政府を指向します。一方右派は、社会の利益より個人の権利や自由を尊重します。大きな政府にこそ問題があると考えることから、個人の自律を前提に小さい政府を指向します。
 アメリカにおいては、民主党が左派、共和党が右派とされています。日本においては、自民党は、雇用慣行の改革や行政の民営化など右寄りの政策をする一方で、農業保護や国民皆保険など左寄りの政策も行い、左右に分類できないことから中道とされています。一方、民進党は、旧民主党が左派、旧みんなと旧維新が右派と整理することもでき、政策理念が党内において集約されていないなか、これまた左右に分類できません。


◯対立軸その2 「権威主義」 VS 「民主主義」
 権威主義は、エリートによる統治を絶対と見なす考え方です。エリートの中のエリートがトップになれば良いと考えます。そのため情報開示に積極的ではありません。古来から東アジアでは、中国の影響を受け「儒教の徳」や「道化の徳」のある人が政治的選択をし統治することで社会がより良くなると考えられてきました。そのため「徳」は統治者に求められる基本的な資質とされてきました。そこで、徳のある人を頂点にエリートを組織し官僚機構が生まれました。権威主義のメリットは、国民が政策に積極的に関与する必要がないので、「国民にとって楽ちん」ということです。
 一方で民主主義は、権威やエリートの過ちを認識し、国民の合議によって政治的選択を決める考え方です。そのため、選挙による国民の選択を重要視します。国民が選挙によってトップを指名し、トップが行政官をかき集めます。民主主義のメリットは、国民が政策に積極的に参加できることから、「国民が選択できる」ということです。
 中国においては、学業優績なエリートだけが共産党に推薦入党できます。日本においても、東大法学部を卒業し国家公務員試験に合格したエリートだけが官僚機構に入省できます。中国共産党と日本のキャリア官僚組織は、選挙の洗礼を受けないエリート集団・権威主義という点で似ています。欧米においては、フランス革命以来、人々の合議により政治的選択をするようになり、また行政官を政治任用するようになり、民主主義へと発展しました。
 自民党は、エリート官僚による中央集権体制の維持を前提としていることや、行政情報の非開示を容認することから、相対的に権威主義と言えます。一方民進党は、旧民主党が脱官僚を、旧みんながキャリア官僚・人事院の改革を、旧維新が地方分権をそれぞれ理念としていたことから脱権威主義だったと見ることができ、結党により民主主義を促進しようとしていると言えます。なお、民進党を頼りないと見る向きもありますが、権威主義を是とする元人事院法においては、キャリア官僚と協調することができずやむおえない状況です。法整備などにより変えることは可能です。
 現在日本では、古来からある中国的な権威主義(官僚主義)を指向する考えと、欧米的な民主主義を指向する考えが、対立軸として存在しているのです。


◯以上の二つの対立軸を図にまとめると、以下のようになります。



◯まとめ
 民進党に対し政策方針が党内において一致していないとの指摘は、民進党の左右に広い構成員に原因があると分かります。その点、自民党も先に指摘のとおり左右に広い政策を実行しています。そのため、水平軸で自民と民進を比較しても違が分かりません。
 しかし、縦軸で見ると、民進党の結党の意義が「日本の民主主義の促進」であることを改めて確認できます。また、自民党と民進党の政治思想に関する対立軸もはっきりします。

 日本の統治に関し「権威主義」を堅持するのか「民主主義」を促進するのか、この点が最も本質的な論点です。民進党の結党によりその論点がはっきりしました。

(おしまい)

追伸。
選択するのは私たち国民です。7月、選択しに投票に行きましょう。なお、投票権の放棄は、暗黙に民主主義を否定し権威主義を肯定することになります。


関連投稿

日本で二大政党制政治が続かない理由
http://kazukat.blogspot.jp/2014/12/blog-post.html

2016年1月5日火曜日

民主主義より優先されるもの 〜イラクやシリアに必要なもの〜

昨今の中東における紛争や宗派対立を見ていると、民主主義が一番と必ずしも言い切れないことを思い知らされます。

イラクは、アメリカが占領し暫定統治したにもかかわらず、その後国内において宗派対立が浮上し、民主化プロセスを上手く進行させていません。改めて中東の地図を見ますと、対立するサウジアラビア(スンニ派)とイラン(シーア派)の両大国の中間に、イラクが緩衝地帯として位置していることを見て取れます。

このような緩衝地帯においては、両宗派が入り乱れ争いも絶えないことから、国としての統治が極めて難しいと言えそうです。そのような不安定な地域に、突如として民主主義を持ち込んでも紛争を解決できそうにありません。むしろ強権的な独裁主義の方が宗派間の紛争を抑え込むことで平和を維持できると考えられます。実際、かつてフセイン大統領は、アメリカが侵略するまで、この不安定な地域において強権的な独裁体制によって平和を維持し続けました。フセイン大統領は、地域平和に必然だったのです。

人々は、何はともあれ、地域が統治され治安が維持されてこそ平和に暮らすことができます。紛争が頻発するような地域で安心して生活できません。アメリカの侵略とアラブの春によって民衆(宗派)が分裂し国土が荒廃していくイラクとシリアのそれぞれの国内情勢を見ていると、民主主義が一番と必ずしも言い切れず、時によっては強権的な独裁政権に委ねてでも、先ずは地域の統治が優先されるべきということを思い知らされるのです。(おしまい)