報道などを見ていると、経済論者の多くは、経済規模が拡大しないなか、生産性を向上することで「国民1人あたりの所得」の伸展が可能と考えているようです。それは、少子化による人口減少が明白な現状において、尤もらしい意見です。ところが、私達は、生産性の劇的な向上により食料を10倍得たとしても食べきれそうにもありません。はたして、私たちは、本当に生産性の向上により所得を伸展させることが可能でしょうか?
◯国内総生産に関する基本的な原則
マクロ経済学の教科書では、経済規模である国内総生産(以下GDP)に関し、「三面等価の原則」により以下の等式が成り立つとしています。
【三面等価の原則】
生産面のGDP = 支出面のGDP = 分配(所得)面のGDP
つまり、経済規模は、人々の作る物やサービスによる生産、人々の購入にともなう支出、人々に分配される所得、いづれの面から見ても金額が同じだということです。そのことは、お金を支払う人がいるからこそ物やサービスが生産され利益を分配できると考えられることからも、容易に理解できます。
◯「国民1人あたりの所得」の伸展とは何か?
ところで、上記の式を人口で割ると以下のようになります。
1人あたりの生産 = 1人あたりの支出 = 1人あたりの分配(所得)
式を見て分かることは、「国民1人あたりの所得」」は「国民1人あたりの支出」によって裏付けられていることです。見方を変えれば、「国民1人あたりの所得」を伸展させることは、「国民1人あたりの支出」を拡大させるということです。つまり、国民全員が支出を抑えつつも所得を増やすことは不可能なことです。また、ロボット化などにより数量ベースでの生産性を上げたとしても、支出が増えない限り、物の単価を下げるだけであり所得は増えないということです。
政治家は、国民の「所得を増やします」と言っていますが、裏を返せば国民の「支出を拡大します」と言っているのです。国民所得は、支出を拡大することで増えるのです。人口増加が止まり支出も拡大しない状況において、「生産性を向上することで国民1人あたりの所得の伸展させる」との考え方は、間違っています。
(おしまい)