私は、有識者が現状認識を間違えていると考えています。
有識者達の意見は、大きく2つに別れ一致していません。
①需給ギャップ説
日本の経済は、需要と供給にギャップがあるため、需要の不足により低迷している。そこで、政府なら、財政出動することで需要を喚起でき、成長起動を取り戻せる。
(参考)内閣府発表 現実GDPと潜在GDの推移
②実質金利高騰説
日本の経済は、物価が下がりデフレ状態にあるため、実質金利の上昇により低迷している。そこで、日銀なら、金融量的緩和を仕掛けることで実質金利を低下でき、成長起動を取り戻せる。
(参考)内閣府発表 名目金利・実質金利の推移
●これまで、実際はどうだったか?
①歳出(対GDP比)の推移を見ると、1995年以降、歳出はそれまでと同様に増加しているものの、GDPは伸びていません。つまり、財政出動しても、国債残高が増えるだけで、GDPに影響しません。このことは、有識者の認識と一致しません。
(参考)世界経済ネタ帳 歳出(対GDP比)の推移
財務省 一般会計歳出総額推移
②マネタリーベースと実質GDPの関係を見ると、金融緩和したもののGDPは上昇していません。このことも、有識者の認識と一致しません。
(参考)内閣府発表 マネタリーベースと実質GDPの関係有識者の見立ては正しくないようです。
●真相は何か?
次の図は、国別の「GDPと人口の相関」をグラフにしたものです。当たり前のことですが、人口が大きいとGDPも大きく、人口が小さいとGDPも小さいことを見て取れます。注目点は、最恵のOECD・非OECD諸国が、同一線(点線)上にあることです。点線を超えて上側に位置する国はありません。つまり、国民1人当たりのGDPには、世界共通の限界があるということです。ここで、この点線を「成長限界線」と定義します。
●高度成長のころはどうだったのか?
次の図は、日本がまだ高度成長期だった1960年当時の、GDPと人口の相関を示したグラフです。日本は「成長限界線」(点線)の下に位置しています。つまり、日本の生産性は、西洋諸国のそれより低く、人口相応のGDPまで成長する余地がありました。
●何故日本のGDPは伸びないのか?
日本のGDPは、1995年にピークに達し、以後下降し続けています。次の図は、ピーク当時のグラフです。バブル景気の勢いが余って「成長限界線」(点線)を突き抜けていたことが分かります。しかし、最初の図(2008年)にもあるよう、現在は「成長限界線」(点線)に位置しています。つまり、ピーク以降の景気低迷は、日本の国民1人当たりのGDPが最恵国の平均に回帰したことの結果です。
●問題の本質
上記で見たとおり、国民1人当たりの生産性には限界があるため、先進諸国では人口の大小がGDPの大小を決定しています。つまり、日本の景気が世界で突出して低迷している訳ではありません。これまでの景気低迷は、国民1人当たりの生産性が世界共通の上限に達しかつ人口も増えない中で、当然の成り行きです。
多くの有識者は、経済を成長させるため、政府支出の拡大や金融の緩和により国民1人当たりの生産性を向上できると考えています。しかし、その考え方は間違えていると言えます。
(おしまい)