多くの経済論者は、貿易収支に関し「黒字を善」「赤字を悪」と受け止めています。そのため、新聞やテレビは、「貿易赤字により富が流出している」と報道しています。しかし、冷静に考えると、「為替」による富の移転はできないため、その考え方が間違っている事に気づきます。
◯極端な例を仮定し具体的に考えてみます。
ある小国があり、人口はわずか1万人、資源は豊富にあり、輸入は不要な状況とします。その小国のある企業が、デジカメを生産し販売を計画します。この企業が生産ラインのロボット化に成功して100万台生産できました。しかし、国内において、販売台数は1人に1台販売できるとしても1万台までしか見込めません。売上高も1台あたり10万円なら10億円です。そのため輸出により利益を伸ばしたいと考え、生産余剰の99万台をめでたくアメリカで1台あたり1千米ドルで売りさばき、9億9千万米ドルを得たとします。
◯この小国の企業は、はたして儲かったのでしょうか。
輸入ゼロの国の国民は、海外で買い付けをしないため、海外通貨を必要としません。そのためそのような国において、外国為替取引が成立せず、輸出企業は海外通貨を国内通貨に換金できません。つまり、この企業が手にした9億9千万米ドルは、国内において、価値のない紙切れにすぎません。アメリカへの輸出は、この企業の利益に貢献しないのです。働き損だったことが分かります。以上を一般化すると、企業は、輸出超過による利益を、外国為替取引に制限されることから得られないことが分かります。
◯なぜこんなことが起こるのでしょうか?
端的にいうと、各国が通貨の交換に際し通貨価値を「変動制」にしてしまったからです。そのため、輸出により得られる対価の上限額が輸入額に制限されるのです。
つまり、変動制の外国為替取引を採用した国において、輸出額は輸入額に制限されるため、貿易収支を「黒」にできません。「通貨」による富の移転はできないのです。できないこと(貿易黒字)を「善」とする考えは、そもそも間違いといえます。
ps.日本の貿易収支は、8月統計値で1兆円近くの赤字でした。しかし、GDP(500兆円)からみると、わずか0.2%の値であり誤差と言えます。貿易収支云々という議論は、無意味です。
(参考) 貿易統計
http://www.kanzei.or.jp/toukei/statotal.htm
(おしまい)
物々交換だったものが、間に通貨が入るようになったと捉えた方がよいのでは。
返信削除輸入しない(買いたいものがない)くらい資源があふれてるなら、
そもそも誰も仕事(生産)もしないのでは。。
コメントありがとうございます。
削除・物々交換だったものの間に通貨が入るようになりました。そのことが、本題に対し何を指摘してしているのか理解できませんでした。
・輸入しないくらい資源があふれても、国内において生産活動は必要ですよね?
理論的には正しいと思います。
返信削除ただし、ただし現実世界をうまく説明することは出来ないと思います。
つまり、輸入を必要としないという条件が成立しないと思います。
外貨を手に入れた人が、海外旅行を楽しんではいけない。
海外の音楽、映画を楽しんではいけない。
そんな理不尽が認められる国はないでしょう。
現実的でない前提条件から得られる結論は理論的に正しくとも現実を反映する結論にはならないと思います。
円安でないと日本経済が立ち行かなくなるといって、円安になるような手を打っていますが、消費者から見ると円高でもガソリンの値段は下がるし、海外旅行も行けるしでそう悪くないと思いますが、円安にすれば黒字になるというのでしょうか。石油の輸入額を考えるとある程度の円高で収支が多少赤でもよいように思うのですが。
返信削除コメントありがとうございます。
削除円安にすれば黒字になるのでしょうか?
答えは「いいえ」です。
そもそも、貿易収支・経常収支が黒字だからこそ、ドルを円に交換する需要も強くなり、円高になるのです。円安に誘導したいのであれば、円→ドル交換需要を増やすため、輸入を増やすことが肝要です。
「円安にすれば黒字」「円高により収支が赤」との考え方は因果が逆です。「熱をさませば風邪がなおる」と言っているようなものです。